2021年に始まった世界的な半導体不足はさまざまなコンシューマー製品の製造に影響を与えていますが、特に打撃を受けているのが自動車製造です。2020年初頭の需要の落ち込み(ただし同年後半には回復)、中古車市場の活況、そしてCOVID-19によるサプライ・チェーンの混乱などにより、自動車メーカーはここ1年減産を余儀なくされています。ただし今後を展望すると、この短期的な後退はプラスの変化につながっていくものと見られます。
今後、自動車の設計者やOEMは高度なカスタマイズが必要とされるソリューションの設計により多くの時間を費やせるように、あの手この手で開発および製造プロセスを加速し、全体的なリリース・サイクルの短縮を図っていくでしょう。以下、2022年の自動車業界を特徴付ける5つのトレンドを予測してみました。
自動運転の機能が向上してくると、エッジ側に、より強力なコンピューティング性能が必要となります。これは、自動運転のさまざまな機能を支える多種多様な大量のセンサーやデバイス、および車内の快適装備をサポートするには高い性能が必要とされるためです。強力なコンピューティング性能をエッジ側に持たせることにより、全体的な処理が高速化し、車両ネットワークの全体的なデータ・スループットが向上します。しかし、第5世代の統合コンピューティング・プラットフォームの採用が広がってくると、さらに強力なコンピューティング性能を車両の中心的な機能として集約する必要が出てきます。現在の一般的な自動車は、すべてのECU(電子制御ユニット)が各種ネットワークを使用して中央のゲートウェイに接続される第3世代のコンピューティング・プラットフォームを採用しています。第4世代のコンピューティング・プラットフォームになると、中央のドメイン・コントローラーで車両全体のすべての相互通信を管理するようになります。この世代のプラットフォームは、既に一部の自動車で採用が始まっています。そして今後は、これまでハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)環境でのみ使用されていたテクノロジを取り込み、より大量のデータをより高速に処理・転送できる、高度に冗長化したコンピューティング・プラットフォームとネットワークを使用した第5世代システムへ移行していきます。
第5世代への移行はおそらく年内には始まり、それによって車両全体に分散していた補助的サービスやシステム・オン・チップ(SoC)がより一層統合へと向かうと見られます。車両の中心的な機能としては[KM3] 、多数の演算コアと専用コアが少数のSoCに統合され、これらのコアを分離して仮想化に使用することにより、これまで専用マイクロコントローラ(MCU)や専用ECUによって提供されていたサービスを車両に提供することになります。
去年の予測で、2021年は車載規格の年になるとの見方を示しました。今年は、これらの規格をどのように実装すれば良いのか、自動車メーカーは多くの疑問に直面することになるでしょう。中でも重要な規格がISO/SAE 21434です。この規格には、セキュリティ管理、プロジェクト依存のサイバーセキュリティ管理、継続的なサイバーセキュリティ活動、関連するリスク評価方法、路上走行車の製品開発および開発後の段階におけるサイバーセキュリティが含まれます。
先ごろ、SAEはCybersecurity Maturity Modelと呼ばれる新しいワーキング・グループを開始しました。これにより、各組織は既に実施中の活動やプロセスをISO/SAE 21434規格の要件に対応付けることが容易になり、既存のプログラムやプロセスを有効活用しやすくなります。組織の成熟度が向上していくと、次は指標を用いてサイバーセキュリティを評価する段階へと移行します。では、組織の成熟度が次第に向上していることを示す指標を組織としてどのように収集/測定し、サイバーセキュリティ・プラクティスが継続的に改善していること、および新しい脅威に対処できていることをどのように確認していけば良いでしょうか。
2022年には、組織はサイバーセキュリティへの取り組みを優先させ、既存のプログラムに新しい活動を盛り込んでいく必要があります。SAEのCybersecurity Maturity Model Task Force認証機関は現在、自動車メーカーおよびOEMが全体的なサイバーセキュリティ・プログラムを容易に改善できるようにするためのガイドライン を作成しています。
2022年の自動車業界では、カスタマイズしたプロセッサや、より多くのソフトウェアが車載ソフトウェア・パイプラインで管理・提供されるようになるため、デジタルツイン・テクノロジに対するニーズがますます高まるでしょう。例えば、まったく新しいECUを追加する場合、システム・アーキテクトはこのECUについて、「どのように動作するか」、「どのようなパッケージか」、「そのECU上でいつソフトウェアのテストを開始できるか」など多くの質問に答える必要があります。ソフトウェア・テストを開始するのに必要なハードウェアを準備するには、数ヶ月、下手をすると数年かかることもあります。デジタルツインを利用すると、この期間を飛躍的に短縮できます。設計者がハードウェア・デザインを反復設計する際も、新しいデザインのデジタルツイン・バージョンをモデル化しておけば、すぐにソフトウェア開発者に渡すことができます。デジタルツインを利用することで、ソフトウェア開発のペースが加速し、特に販売後の路上走行車に対するソフトウェアのテストとデプロイ方法にイノベーションをもたらすことができます。
おそらく、2022年は電気自動車(EV)が主流へと移行する転換点になるものと思われます。自動車メーカー各社がローエンドからハイエンドまで幅広いニーズに応えるEVモデルをラインナップし、消費者が自由に車種を選べるようになるのも時間の問題でしょう。特にハイエンドのEVになると、充実した運転機能、長い航続距離、伝統的なドライバー・アシスト、自動運転に関するスマート機能、ハイウェイ・ドライバー・アシスト、高度な運転自動化など、あらゆる機能が搭載されます。メーカーは現在、自動車に対する真の消費者ニーズを理解するとともに、材料の入手性や製造コストなど技術的な課題も解決しつつあります。
また、これまでEVの世界とは無縁と思われていたブランドや、グローバル市場での先発優位性を狙うスタートアップ企業の新興ブランドを目にする機会も増えてくるでしょう。EV市場には多くのプレーヤーが参入しており、EVが主流になる様子を目の当たりにできるのは楽しみなことです。
人口の密集する大都市圏を中心に、今後は自動車を個人所有するのではなく、カーシェアリングを利用することが一般的になっていく可能性があります。この利用モデルでは、車両を利用したい時間帯を事前に予約する、あるいはオンデマンドで申し込んで30分以内に配車してもらうといった形で自動車を利用することになります。既に多くの企業やスタートアップがこの種のソリューションを提供していますが、この市場での消費者ニーズをより的確に理解していけば、大きな成長の余地があります。今後12ヶ月でどのような結果になるかは、例えば車両共有モデルにおけるCOVID-19(およびその他の病原体)の感染可能性を消費者がどのように捉えるかなども含めて、多くの要因によって左右されるでしょう。
最終的に自動車メーカーは、サプライ・チェーンの混乱、COVID-19による経済的影響、消費者の嗜好の変化、新しいサイバーセキュリティ規格、サスティナブルなオプションを開発することの必要性など、さまざまな要因によって生じた課題に対処するためのイノベーションと創造的問題解決を見せてくれることでしょう。自動車のテクノロジは進化を続けており、かつてないほど複雑化しています。自動車メーカーは、よりスマートでより安全、そしてより環境に優しい選択肢を消費者に提供するという目標に向かって着実に前進しています。