MLベースのビッグデータ解析により、チップ設計の指針となる 知見を明らかに

米国シノプシス 

シリコン・リアライゼーション・グループ 
シニア・スタッフ・プロダクト・マーケティング・マネージャー Mark Richards


デジタル・チップの設計フローの奥深くには、SoCデザインの健全性と状況に関する膨大な量の情報が手つかずのまま眠っています。もしもこの情報を、チップ設計の指針となる知見に変え、それを生産性の向上、ひいてはSoCの品質改善へとつなげるようなシームレスかつ効率的な方法があったとしたらどうでしょうか。
 

SoCとシステムは複雑さを増し、市場への製品投入スケジュールはますます厳しくなり、エンジニアリング・リソースは逼迫の度合いを強めています。この状況は、おそらくすぐには変わらないでしょう。だとすると、デジタル設計フローに眠る豊富なデータを有効に活用できるようになれば、それは競合他社に対して大きなアドバンテージとなる可能性があります。
 

シノプシスのDesignDashはまさにこうした目的のために開発されたソリューションで、データを可視化し、機械知能(MI)によりデザイン最適化をガイドします。DesignDashは、シノプシスのEDAデータ解析技術を大幅に進化させたテクノロジであり、シリコン実現の前後でデータの連続性を確保し、設計からシリコンまでのライフサイクル全体にわたって貴重なデータ解析の機会を最大限に活用可能にする包括的なソリューションです。本稿では、DesignDashによって設計チームの生産性、効率、効果がどのように向上するのかについて詳しくご説明します。

全員にとっての可観測性と可視性が向上

シノプシスのRTLからサインオフまでの設計フローは多数の設計/解析エンジンで構成されており、これらがあたかも舞踏会でワルツを踊るように常時連携しながら、ゴールデン・サインオフ対応の解析(タイミング、パワー、面積、IRドロップ、DRC)とターゲットを絞った高度な最適化を実行します。その狙いは、消費電力、性能、面積(PPA)の目標を協調的に、そして可能な限りスムーズかつ効率よく達成できるようにすること、その一点に尽きます。この継続的な解析によって膨大な量のデータが生成されますが、その多くは非構造化データです。しかし、このように一見してつながりのない大量のデータも、それらをまとめてすくい上げればデザインの「健全性」を詳しく理解するのに役立ちます。例えば、デザイン改良の余地はどこに残っているのか、デザイン・クロージャを達成するにはフローの早期段階で何に対処すれば良いのか、などを明らかにすることができます。
 

ログ・ファイルでも、ある程度まではこのデータを掘り起こすことができます。しかし、現在のデザインは非常に大規模で複雑なため、奥深くに眠るデータのごく一部しか可視化できず、全体の理解には至りません。したがって、これまではどのデータが役立つかをエンジニア自身で推測し、ツールから事前対処的にデータをダンプして、必要と思われる情報を抽出するしかありませんでした。そして、ログ・ファイルなどの伝統的なデータ・ソースを複数のツールで解析した後、その結果を1つにまとめることで、ようやくデバッグに必要な情報を手にしていました。これまで欠けていたのは、これらのデータ(奥深いエンジンの指標とそれに関連する解析)を統合し、1つの大きな全体像にまとめ上げる手段です。例えば、デザインの特定部位におけるタイミングの問題と、他の部位における配線混雑の問題という「点と点」を効率よくつなぐことが可能になれば、非常に大きな利点となります。
 

DesignDashは、すべてのプロジェクト・データに関してこのような全体像を提示し、その後の多くの工程を支援します(図1)。このソリューションは、効率的かつ自律的に指標データを吸い上げると同時に、関連する解析データをシノプシス独自の単一データ・モデルから直接インテリジェントに収集します。そして、これらのデータを変換して、常時稼働する業界標準のデータベースに登録します。サードパーティ製ツールからのフロー指標も、同じくらい簡単に扱えます。データはツールから切り離されたデータベースに保存されるため、検索、フィルタリング、グラフ作成、比較、トレンド解析を簡単かつ直感的に行えます。実行を重ねるごとに、プロジェクト・チーム全体からのデータが応答性の高いウェブベースのユーザー・インターフェースを通じて吸い上げられ、これらを比較、相互参照し、簡単に共有することができます。

図1:シノプシスのDesignDashテクノロジは包括的な可観測性をサポートしており、ブロックごと、サブシステムごと、あるいはSoC全体の進捗状況をより正確に追跡できます。チームや組織ごとに最適なビューを構築し、注意が必要な領域を迅速に特定できます。

DesignDashは、このシームレスな共有という考え方を主眼としています。従来の人手による細切れなデータ・キャプチャでは、設計プロセスは極めて不透明なままでした。土台となる設計プロセスを包括的に測定する方法がなければ、設計プロセスを改善してより効果的に管理することなどほとんど不可能です。


あらゆるものが計測されるという事実をベースに、すべての設計活動をリアルタイムに360°可視化して標準化を可能にすることで、プロジェクト全体の効率が向上します。これまで、エンジニアはデータを抽出してスプレッドシートに入力し、色付けなどを各自ばらばらの方法でフォーマットしてスライドに貼り付け、日次または週次進捗レポートを作成していました。こうした作業に、チームとしてどれだけの時間を費やしていたかを考えてみてください。とても多いはずです。シノプシスの画期的なデータ可視化ソリューションを使用すれば、チーム全体のダッシュボードに一貫性のある包括的なビューを表示し、ステータスを簡単に比較して設計の指針となる有益な情報を得ることができます。プロジェクト管理の改善に必要な重要業績評価指標(KPI)は、手軽に作成できるダッシュボードにすべて取り込むことができます。リソース(マシンやライセンスなど任意の指標を設定可能)の効率は、共有が容易なこのダッシュボード上で簡単に追跡、管理、最適化できます。カスタマイズ可能なウィジェットを使用して外部データ・ソースを取り込み、これらを組み合わせて独自の深堀りを実行することもできます。

豊富な解析データを生成し、チップ設計の本当の指針となる知見を明らかに

ビッグデータの収集と管理は序章にすぎません。DesignDashテクノロジは、幅広い入力データをマイニングして、何が起きているか(フロー全体の任意の時点におけるエンジンの状態など)だけでなく、それがなぜ起こっているのかも指摘します。この機械学習(ML)ベースの拡張解析により、設計フロー全体を通じて設計トレンドの自律的な分類、デザインの制限の特定、およびガイド付きの根本原因解析が行われ、デザインを深いレベルでより迅速かつ簡単に理解できます。解析はバックグラウンドで自動的に実行されます。これは、あたかも多数のエンジニアが専門家レベルのデバッグを実行し、そのリアルタイム解析結果を理解し易い形の(すなわち直感的でカスタマイズ可能でインタラクティブな)、そして相互比較が可能な可視化データへと抽出してくれるようなものです。
 

クリティカルパスの構造がフローの各段階でどのように変化してきたのか。クリティカルパスでエラーが発生した主な理由は何だったのか(ロジックの深さ、迂回、レイヤーの選択、スキュー、挿入遅延など)。この実行結果を他の3つの実験結果と比べるとどうか。ツール・オプションやフローの変更など、何がエラーの最大要因と考えられるのか。チーム全員が深い専門知識を身につけるようになると、これ以外にもさまざまな疑問への答えがすぐに見つかります。こうして、より多くの良質な情報に基づいた、データ駆動型の意思決定へと近付いていくことができます(図2)。

図2:シノプシスDesignDashでは、フローのすべてのステージからのデータ(あるいは、異なる設計フローのデータ)を理解しやすいビューで横断的に可視化できるため、デザインへの理解を即座に深めることができます。

DesignDashテクノロジによる深い拡張解析は、自動的に特定された問題を解決する方法をさまざまな選択肢としてチームに提案する処方的ガイダンスへの扉を開きます(図3)。統計ベースおよびMLベースのモデルにより、デザインの個々の問題に対するツールの最適な対処方法を捉えた後、ツールで利用可能なスクリプトを生成することで、デザイン・クロージャまでの期間を大幅に短縮し、これまでの方法では達成不可能であったPPAを可能にします。

図3:シノプシスDesignDashは、多数の異なるクロスドメイン・ソースからのデータを1つのビューに統合し、シームレスなクロスプローブを実現します。ここに示したビューは、クロストークのタイミングへの影響と物理的位置の関係を表したものです。

シリコン・エンジニアリング・チームの作業を迅速化

DesignDashはシノプシスのデジタル・デザイン・ファミリー製品と連携し、業界で初めてチップ設計に自律型AIを適用したシノプシスDSO.aiをスマートに補完します。これらのテクノロジを組み合わせることで、多くの設計チームが現在直面している生産性の伸び悩みを解消します。まず、デバッグと最適化の生産性を高めるDesignDashを活用することにより、より広大なアーキテクチャ解空間の中から、より「実装可能な」デザインを短期間で達成します。次に、これらの最適化されたデザインを起点として、DSO.aiテクノロジが広大な多次元の解空間を探索し、システムレベルで真に最適なPPAを非常に短期間で達成します。たとえて言えば、DesignDashが最も高い山脈と、その中にある最高峰を迅速に特定し、DSO.aiがさまざまな知能を駆使し、より包括的なチップ設計目標を考慮して最高峰の中にある本当の山頂を即座に見つけ出すようなものです。
 

デジタル化が進むこの世界で、差別化されたシリコン・デザインを作成するには人間の創意工夫が不可欠であり、それが今後何か別のものに置き換えられることは決してありません。シノプシスDesignDashはこの創意工夫を補完し、「スマート・エブリシング」の実現に向けてエンジニアがよりスマートに作業できるよう支援するソリューションです。