RSoftとCODE Vによるメタレンズ設計とシミュレーション

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複数のシミュレーションを組み合わせることで、メタレンズの設計に効果的なシミュレーション手法をご紹介します。

有限差分時間領域法(FDTD)または厳密結合波解析(RCWA)を使用して、さまざまな個々のナノセルの位相遅延を計算し、次に効率的なビーム伝搬法を使用して、メタレンズまたは同等の位相マスクを通過するビームをトレースすることができます。この例では、この複数のアルゴリズムを組み合わせたアプローチが正確かつ効率的であり、フルFDTDでのメタレンズシミュレーションと比較して、計算メモリと時間に対する要求が大幅に削減されていることを示します。

はじめに

メタレンズは、その全体サイズが電磁光学ツールで扱うには非常に大きく、多くのナノ構造を含んでいるため、フォトニックシミュレーションアルゴリズムを用いた設計やシミュレーションが困難な構造体であると言えます。ナノ構造をシミュレーションするためには、FDTDのような厳密なアルゴリズムを使用する必要があります。しかし、FDTDは計算コストが高く、かなりのコンピュータリソースを必要とします。ほとんどの研究所でFDTDにより直接シミュレーションできる最大のメタレンズは直径数十マイクロメートルであり、必要とされるものよりはるかに小さいのが実情です[1]。

しかし、実際にはメタレンズ全体のダイレクトFDTDシミュレーションは幸いなことに必須というわけではありません。このアプリケーションノートでは、メタレンズをより単純な要素に分解し、個別に解けるようにするアプローチを紹介します。FDTDやRCWAなどの厳密なアルゴリズムを使用して、個々のユニットナノセルの位相シフトを計算し、そこからメタレンズ全体の位相マスクを構築します。

次に、ビーム伝搬法 (BPM)やBeam Synthesis Propagation(BSP)などのより効率的なアルゴリズムを用いて、メタレンズを通過する光の伝搬をシミュレートします。伝搬については、クロスバリデーションのため、同じメタレンズ構造に対してBPMとBSPの両方を使用します。 

シミュレーションフロー

メタレンズの性能には、各単位ナノセルの位相が重要です。単独のナノセル内のモード伝搬による位相シフトに基づく近似的な推定は、ナノセル内部の共振や隣接するナノセルからの干渉を無視するため、正確ではありません[1]。

本研究では、RSoftのFullWAVE(FDTD)およびDiffractMOD(RCWA)ツールを用いて、ある格子パターンを持つ個々のナノセルの位相遅延を計算しました。図1は、λ=532nmにおけるナノピラーとナノホール(左)、およびナノピラーの長方形と六角形の格子(右)において、規格化された直径の関数として計算した位相シフトを示したものです。 

Phase shift at λ=532nm of nano-pillar and nano-hole | Synopsys
Phase shift at λ=532nm of nano-pillar and nano-hole for different lattices | Synopsys

図1:ナノピラーとナノホールのλ=532nmにおける位相差(左)と異なる格子に対する位相差(右)

ナノピラーは正の位相シフトを、ナノホールは負の位相シフトを与えることが明確にわかります。また、格子パターンにはほとんど違いがなく、重要なのは充填率に関連する規格化された直径であることがわかります。

メタレンズのレイアウト

図1に示した位相遅延曲線をもとに、メタレンズの各セルの直径は、その特定の点での設計された位相シフトに応じて決定することができます。図2に理想的なメタレンのレイアウトを示します。

このメタレンズの位相プロファイルは、式(1)に示すとおりです。

ここで、λは波長、Fは焦点距離です。メタレンズは、緑色光(λ=532nm)に対して、焦点距離F=200μm、直径D=100μmで設計されています。

Figure 2: Layout of an ideal metalens built from nano-pillars | Synopsys

図2:ナノピラーで構成された理想的なメタレンズの配置図

作成するメタレンズを実際に製造可能なものとするため、規格化直径は360度の位相シフトが可能な0.45~0.85μmの範囲として選ばれています。図3は、生成された上記のメタレンズの位相マスクです。

Figure 3: Phase mask of the metalens | Synopsys
Horizontal Cut of Phase mask for Green | Synopsys


図3:メタレンズの位相マスク

小さな構造でのBPMアルゴリズムの検証

BPMは、後方反射を考慮せずに前方伝搬をシミュレーションする効率的な手法です。まず、直径20μm、NA=0.25の小型メタレンズで、FDTDアルゴリズムに対するBPMの検証を行います。理論的な焦点距離はF=17.3µmです。図4の左側はBPMシミュレーションの結果でF=16.96µm、右側はFDTDの結果でF=17.14µmです。この比較から、このアプリケーションでは、BPMがFDTDと非常によく一致することがわかります。

Figure 4: BPM result  | Synopsys
FDTD result | Synopsys


図4:BPMでの計算結果(左)とFDTDでの計算結果(右)

なお、BPMの必要メモリは0.19G、FDTDは55Gで、一般的なデスクトップパソコンでのシミュレーション時間はそれぞれ1.5分と130分でした。このように、BPMはFDTDと同様の結果を、大幅に短いシミュレーション時間で得ることができます。

より大規模な構造でのBPMアルゴリズムの検証

図5に直径=100µm、F=200µmのより大きなテスト構造を示します。 図5の左側は、ガウシアンフィールドを入射光として使用したBPMの結果です。計算上の焦点距離はF=200.1µmです。メモリは3.3GB RAM、所要時間は一般的なデスクトップパソコンで4分でした。

Figure 5: BPM result (left) for green light (λ=532nm) at L=200µm | Synopsys
Figure 5: BSP result (right) for green light (λ=532nm) at L=200µm | Synopsys


図5:BPMでの計算結果(左)と緑色光(λ=532nm)、L=200µmにおけるBSPの計算結果(右)

FDTDで大きなメタレンズを直接シミュレーションするには膨大なメモリが必要になるため、別の伝搬アルゴリズムであるシノプシスのCODE V® Beam Synthesis Propagation(BSP)機能に対してBPMの結果を検証しています。BSPは、その実装上、ナノ構造の物理光学シミュレーションを直接扱うものではありません。 その代わり、図3に示すように、メタレンズを位相マスクとして扱います。BSPの結果は図5の右側に示されています。得られた最小のスポットサイズはL=200μmであることが確認され、BPMの結果と見事に一致しています。今回のシミュレーションでは、ノートパソコンで4GBのRAMを使用し、BSPシミュレーションには約3分かかりました。

メタレンズの分散

メタレンズの色収差はよく知られた問題です。分散を正確にモデル化することは、色収差のないメタレンズを設計するための重要なステップです。図6に示すように、研究対象のナノピラーではRGBの各波長に対して非常に異なる挙動を示し、ナノピラー内の共振によって青と緑の光に対して急峻な位相変化が発生していることさえあります。

Figure 6: Dispersion of the nano-pillar | Synopsys


図6:ナノピラーの分散特性

上記の曲線に基づいて、青と赤の光の位相マスクを生成することができます。これらの生成された位相マスクとBSP伝搬を使用して、メタレンズの焦点距離が青色光で223um、赤色光で161nmと計算されます。比較のために、メタレンズのダイレクトBPMシミュレーションも行いました。BPMによって計算された焦点距離は223μmと161μmで、BSPの結果と一致しています。 ビームプロファイルのRMSフィットは、それぞれのケースでおよそλ/100でした。

BPMでの伝搬計算の結果と焦点におけるビームプロファイルを図7に示します。

Figure 7: BPM result (left) for blue light (λ=470nm) at L=220µm | Synopsys
Figure 7: BSP result (right) for blue light (λ=470nm) at L=220µm | Synopsys


図7:BPMでの計算結果(左)と青色光(λ=470nm)、L=220µmにおけるBSPの計算結果(右)

Figure 8: BPM result (left) for red light (λ=650nm) at L=160µm | Synopsys
Figure 8: BSP result (right) for red light (λ=650nm) at L=160µm | Synopsys


図8:BPMでの計算結果(左)と赤色光(λ=650nm)、L=160µmにおけるBSPの計算結果(右)

まとめ

ここでは、RSoftのFullWAVEやDiffractMODを使用して個々のメタレンズナノセルをシミュレーションし、BeamPROPやCODE VのBSP機能を使用してメタレンズ全体を通過する光の伝搬をシミュレーションすることにより、実用的なメタレンズを設計し、シミュレーションするための効果的なアプローチを実証しました。ここで紹介したテスト例は、これが実行可能なアプローチであり、精度と計算リソースの効率的な使用の両方を提供することを実証しています。

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参考文献

[1]    Khorasaninejad, Mohammadreza, et al. "Polarization-insensitive metalenses at visible wavelengths." Nano letters 16.11 (2016): 7229-7234.

[2]     https://www.synopsys.com/photonic-solutions.html

[3]     https://www.synopsys.com/optical-solutions/codev.html

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メタレンズの設計とシミュレーションのための効果的なアプローチ

本動画では、メタレンズの構造の設計とシミュレーションの効果的なアプローチについてご紹介しています。

参考情報

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