3次元誘電体球のミー散乱

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光と粒子の相互作用をモデルリングするための主要な手法の1つであるMaxwell方程式に対するMieの解は、均質な球体による平面波の散乱を表現しています。より広義には、散乱球のサイズが光の波長と同程度である場合にミー散乱という表現が一般的に使用され、より小さいサイズ(レイリー散乱)または、より大きいサイズ(光学散乱)を指すためのものと区別されています。レイリー散乱や光散乱では、Mie理論の簡単で優れた近似式が存在し、物理的な挙動を説明するのに十分です。しかし、ミー散乱に関しては、単純な近似は存在せず、球面多極子部分波の無限級数の形をとる完全な解析解が必要とされます。ミー散乱は、大気学、癌の検出と治療、メタマテリアル、寄生虫学など、幅広い用途で利用されています。

RSoftのFDTDベースのMaxwell方程式ソルバーであるFullWAVEは、ミー散乱を直接シミュレーションすることができ、Mie理論との優れた比較結果を得ることができます。本事例では、3次元誘電体球のミー散乱をシミュレーションしています。

誘電体球

ミー散乱のシミュレーションでは、球体によって散乱される電磁場を評価するためにEnclosed launchの励起タイプを利用します。Enclosed launchでは、球体を囲む密閉された領域中で平面波を利用します。球体によって散乱されたフィールドのみが伝播し、散乱されない光は領域境界で吸収されます。球体の周囲には、散乱されたフィールドと散乱されないフィールドの両方が存在します。図1は、球体と球体で囲まれた境界の図です。

3D dielectric sphere (red) within the enclosed launch region (gold) | Synopsys

図1:
Enclosed launch領域(黄)に囲まれた3次元誘電体球(赤)

この事例では、表1に示すパラメータを持つ誘電体球からのミー散乱をシミュレーションします。図2には、球体の屈折率プロファイルと、定常状態の電界振幅のコンタープロットを示します。

球の直径

8.0um

球体の屈折率

1.2(実部)  0.0(虚部)

背景材料の屈折率

1(空気)

波長

0.75μm

表1:誘電体球とシミュレーションのパラメータ

Contour Map of Index Profile And Electric Field Amplitude | Synopsys

図2:(左)誘電体球の断面屈折率プロファイル  (右)電界振幅コンターマップ

球体によって散乱された電界のみが境界を越えて伝搬します。球体の輪郭は黒で示します。

ファーフィールドの散乱パターンを表示するには、FullWAVEのMultiPlane Far-Field出力オプションを使用して、シミュレーション領域のすべての側面で計算されたニアフィールド分布を利用して、ファーフィールドを計算することができます。図3に示すように、上側(前方散乱)と下側(後方散乱)の両方の半球についてファーフィールドパターンが計算されます。

Far-Field Intensity  | Synopsys

図3:(左)上半球と下半球のファーフィールド散乱パターン。
(右) Mie理論によるファーフィールド散乱パターンの比較。

X軸に沿ってファーフィールド散乱パターンを切断したもの[3]。

図3に示したMie理論の結果は、Scott PrahlのMIEコード[4]を用いて得られたもので、Wiscombe Mie散乱コード[3]に対して検証されたものです。

図4で球の散乱効率(Qeff =σtot/πa2 )とそのサイズパラメータ(x = 2πa/λ0 )をプロットするとわかるように、Mie理論のいくつかの物理的意味は驚くほど直感に反しています。ここで、λ0 は真空での波長、a は球の半径、σtot は球の全散乱断面積(σtot は任意の方向への散乱の確率∝であることを思い出してください[6])です。

Scattering Efficiency vs/ Size parameter | Synopsys

図4:表1の誘電体球の散乱効率(Qeff)対サイズパラメータ(x)。

まず、大きな粒子の極限で散乱効率が2に近づくことに注目します。散乱パラメータが大きな値の場合、幾何光学からQeff = σtot/πa2 → 1 as x → ∞(古典散乱極限のσtot →πa2 として)と予想されるかもしれません。しかし、σtotには、球のエッジでの入射平面波の回折による寄与が加わります。誘電体球の場合、σtotへの追加寄与は≈πa2 、したがってσtot →≈2πa2Qeff →≈ 2 as x→∞となります。この効果は「消滅パラドックス」と呼ばれ、[2]で詳しく説明されています。なお、上記の数式で≈が使われている理由は、誘電体球への電界の侵入によるものです。電界が球体に侵入しない完全導電球の場合、σtot → 2πa2Qeff → 2 となります。

次に、Mie理論は、中間の粒子径において、散乱効率がサイズパラメータによって振動することを予言していることに注目します。レイリー領域(0<x<0.1)では、散乱効率を次のように記述することができます。

formula

mは粒子の屈折率と周囲の媒質の屈折率の比です。したがって、レイリー(Rayleigh)領域では、散乱効率は単純にx4 に比例します。また、光散乱領域では、Qeff → ≈ 2となります。しかし、中間領域では、サイズパラメータが増加するにつれて散乱効率が振動することが見うけられます。

RSoftのスキャンおよび最適化ユーティリティであるMOSTを使用して、複数のFullWAVEシミュレーションを自動化し、図4のQeff vs. xのプロットを作成しました。σtot は、FullWAVE の MultiPlane Far-Field 出力オプションで簡単に計算できます。σtot を求めた後、Qeffx は、後処理で図 4 のように作成することができます。図4に示したMie理論の結果は、Phillip LavenのMIEコード[5]を用いて得られたものであり、Bohren and Huffmann MIEコード[2]に対して検証されています。

FullWAVEはミー散乱問題をシミュレーションするための強力で正確な方法を提供します。このアプリケーションノートで紹介した単純な誘電体球からの散乱の結果は、より複雑な状況にも簡単に拡張でき、大気学、バイオフォトニクス、先端材料など、さまざまなアプリケーションを研究するための汎用的なツールをユーザーに提供します。

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参考文献

[1] Tseng, Snow H., et al. "Pseudospectral time domain simulations of multiple light scattering in three‐dimensional macroscopic random media." Radio science 41.4 (2006).
[2] Bohren, Craig F., and Donald R. Huffman. Absorption and scattering of light by small particles. John Wiley & Sons, 2008.
[3] W. J. Wiscombe, "Improved Mie scattering algorithms," Appl. Opt. 19, 1505-1509 (1980)
[4] http://omlc.org/calc/mie_calc.html 
[5] http://www.philiplaven.com/mieplot.htm 
[6] Cox, A. J., Alan J. DeWeerd, and Jennifer Linden. "An experiment to measure Mie and Rayleigh total scattering cross sections." American Journal of Physics 70.6 (2002): 620-625.