Optical and Photonic Solutions Blog~日本語版~
公開日:2023年12月18日
2020年7月30日にNASAはマーズ2020ミッションの一環として火星探査機「パーサヴィアランス(Perseverance)」を打ち上げました。パーサヴィアランスは、過去の生命の痕跡を探し、将来のミッションで最終的に地球に持ち帰られるサンプルを収集するという、新たな使命を帯びて火星に投入されました。
NASAによると、このミッションは、太古の昔に火星に居住可能な環境があった痕跡を探すだけでなく、過去の微生物生命体そのものの痕跡を探すことです。
この探査機はサイズもデザインも先代火星探査機のキュリオシティ・ローバーと似ており、コンパクトカーほどの大きさですが、岩石や土壌サンプルの採取を容易にするために新しいカメラシステムを搭載しています。
そのひとつがMastcam-Zで、探査機の柱に取り付けられた科学的な "目 "として機能しています。Mastcam-Zの "Z "は "ズーム "を意味します。これは宇宙探査の歴史における画期的な出来事であり、深宇宙観測機器に初めて搭載されたズームレンズシステムなのです。
Mastcam-Zは、先代のキュリオシティに搭載されたMastcamをアップデートしたものです。下記の重要な機能を有しています:
Mastcam-Zは、マルチスペクトル立体画像を生成することができます。その強力なズームにより、科学者は遠隔地から火星の風景の小さな特徴を見ることができます。
その性能の一例を挙げると、100mの距離から3cmの小さな地形もとらえることができるのです。
シノプシスの光学エンジニアは、Malin Space Science Systems社およびArizona State Universityと共同で、CODE Vを使用してMastcam-Zのズームレンズ・システムを設計しました。
解決すべき技術的課題は数多くあり、レンズは広い可視スペクトル範囲にわたって良好に補正される必要がありました。少なくとも3倍のズーム範囲で動作し、探査機のすぐ近くから無限遠まで焦点を合わせることができる必要がありました。レンズはまた幅広い温度領域かつ極端な温度勾配を持つ条件で作動しなければなりませんでした。
このような過酷な動作条件では、設計に多大な労力を要するだけでなく、極めて詳細な解析が必要となります。シノプシスの光学エンジニアは、レンズが正常に製造でき、すべての動作条件で機能することを提示する必要があったのです。
アリゾナ州立大学の主任研究員Jim Bell博士は、次のようにコメントしています。
「Mastcam-Zの科学チームと装置開発チームは、ズームレンズ・システムを設計したシノプシスの高い技術力とサポートに非常に満足しています。結果として火星の高解像度カラー画像、さらには3Dビューが提供が期待できる素晴らしい一対のカメラが完成しました。」
Malin Space Science Systems社 アドバンスド・プロジェクト・マネージャ Michael Ravine博士は、「シノプシスは、提案から最終テストまでMastcam-Zの開発をサポートしてくれました。火星のシミュレーション条件下でズームがうまく機能したことに満足しています。」と述べています。
博士号を持つ、シノプシスのプリンシパル・オプティカル・エンジニアの Blake Crowtherは以下のように述べています。
「惑星間ミッションで使用されるレンズの設計に関連する最大の課題の1つとして、動作環境の多変量性があり、さらに、人が介在することなく、最初から毎回確実に動作しなければなりません。さらに、ズームレンズを設計する場合、対象物の距離に応じて広い範囲にわたって機能しなければならないため、動作に関する問題は非常に重要な要素です。設計者が設計過程で留意しなければならない詳細な要件事項は、信じられないほど多岐に渡ります。設計のあらゆる段階において、光学エンジニアは複雑な設計上の要件や詳細な解析結果について大規模で多様なレビューをプロジェクトメンバーに伝える能力を必要としますが、これは並大抵の努力ではありません。このプロジェクトのために集まった才能あるメンバーで構成されたチームとこのようなレンズを設計できたことは大変光栄で楽しいプロジェクトでした。」
パーサヴィアランスのもうひとつの最新カメラシステムは、搭載されている複数のエンジニアリングカメラのひとつであるCacheCamです。
CacheCamは車体の下部に搭載され、サンプル物質の採取状況を撮影します。
シノプシスの光学エンジニアは、CacheCamの照明光学系の設計にも貢献しています。
CacheCamには固定照明器(可動部なし)が搭載されています。採取プロセスの開始時にはサンプルはカメラから離れていますが、最終段階ではサンプルとカメラの距離は近づきます。このような採集プロセス全体を通して材料を均一に近い状態で照明をすることができます。さらに、照明装置は光学系の外表面や採取管の内表面に粉塵が付着していることを考慮しなければなりません。
CacheCamの設計に携わったエンジニアの一人であるSimon Magarillは、「解析と設計のプロセスに粉塵を含める必要があるため、さまざまなサイズと濃度の散乱粒子を考慮するために多くの計算が必要でした。私たちは、このような厳しい条件下で最適な性能を発揮する照明器を設計するために、体系的なアプローチを開発しました。」
本記事に関連する記事は下記カテゴリページよりご覧いただけます。
CODE Vの無償トライアルやお見積もり、技術相談を承っております。
ご希望の方は下記ボタンからお気軽にお問合せください。