Optical and Photonic Solutions Blog~日本語版~
公開日:2024年12月3日
自動車の安全性において、照明システムは極めて重要な役割を果たしています。
アダプティブ・ドライビング・ビーム(以下、ADB)ヘッドライトは、対向車の眩しさを最小限に抑えながらドライバーの視認性を高める、車載照明における技術革新の最前線にあります。
この記事では、ADBヘッドライトの設計とシミュレーションのワークフローの概要、特にADBヘッドライトとピクセルライトヘッドライトの仮想設計、シミュレーション、解析、検証作業をどのようにサポートしているかについて説明します。
ADBヘッドライトは、配光を動的に調整して路面照度を最適化しながら、他の道路利用者の眩しさを回避するように設計されています。 この技術は、交通安全を向上させるだけでなく、ドライバーの快適性も高めます。 このような高度なシステムを設計するには、専門的なツールと技法が必要になります。
ADBまたはピクセルライトシステムの開発には、拡張機能を備えた設計機能が求められる。
コンセプチュアル・ピクセルライト・ドライビング・シミュレーション
最初に示すワークフローは、コンセプチュアル・ピクセルライト・ドライビング・シミュレーションになります。この手法では、ドライビング・シミュレーション内の車両領域(バウンディング・ボックス)に基づいて、遮光領域(シャドウ・マスク)を計算します。車両が移動すると、このバウンディング・ボックスが変化するため、シャドウ・マスクを含む配光をリアルタイムで動的に調整する必要があります。
LucidDriveでは、他のドライバー用シャドウ・マスクのバウンディング・ボックスが、左側ランプと右側ランプの両方について計算されます。これにより、理想的なマスクゾーン内の光度が効果的に0(ゼロ)に減少します。
このアプローチは、初期要件を収集し、ピクセルライトシステムの基本的な性能をテストするのに最適です。 異なる角度解像度の影響を素早く研究でき、標準的なコンピュータ・ハードウェアでシミュレーションできます。 しかし、理想的なマスキングを想定しているため精度が低下し、最終的な検証には不向きです。
参照用エイミングウォールを見ると、遮光された領域は、片側または左右両方のランプで照らされます。左右両方のランプで遮光されている場合、その領域は照らされません。
物理ベースのピクセル・ライト・ドライビングシミュレーション
対照的に、物理ベースのピクセル・ライト・ドライビングシミュレーションは、より詳細で正確なアプローチを提供します。 この方法は、ドライビングシミュレーション中に個々の光源ピクセルを考慮し、光学性能の正確な予測を提供します。 特に、光学系のタイプの検証や、複数のレンズが必要かどうかの評価に役立ちます。
各々のピクセルから出射される配光分布は走行シミュレーションに利用されます。エイミングウォールで確認できる遮光された領域は、完全に暗くなっているわけではありません。実際には、フレネル反射、収差、迷光によるゴーストやフレア、コーティングの影響などによって発生する照明が遮光領域に重なります。
このような緻密なレベルにおいて、コンピュータのハードウェアに対する要求も高くなり、数ギガバイトのメモリや最新のCPU、GPUが必要になる場合があります。このような懸念もありますが、正確な性能予測が可能になることから、精度面のメリットは十分に見合うものとなります。コンピュータのハードウェアやピクセル数、解像度などに応じて、LucidDriveでは光分布の処理が最適化されており、詳細なシステム検証に適したリアルタイムのパフォーマンスが可能です。
視野と有効焦点距離
ADBヘッドライトシステムの設計は、視野を定義し、有効焦点距離を計算することから始まります。 例えば、オスラム社のSmartrix HDセットアップを使用すると、2つのモジュールを使用して水平方向に32度、垂直方向に8度の全視野をカバーすることができます。 有効焦点距離とFナンバーは、集光効率とイメージング性能に影響する重要なパラメーターとなります。
OSRAM Smartrix HDのセットアップ(ImageJ. Trommer, T. Feil, D. Weissenberger, R. Fiederling, und M. Rayer, "New Possibilities with µAFS modules - The Path to High-Resolution Full-Matrix Headlamps," in Proceedings of the 12th International Symposium on Automotive Lighting (ISAL), Vol.17, 2017, p. 335.)をピクセル光源として使用。
CODE Vによる最適化
初期パラメータの設定後、次のステップではCODE Vで最適化を利用してレンズ設計を行います。 この最適化プロセスには、変数の設定、誤差関数の指定、有効焦点距離やレンズ厚などの制約条件の定義が含まれます。 目的は視野全体にわたって撮像品質のバランスをとりながら、可能な限り最高のイメージングシステム性能を達成することです。
CODE Vによる最適化前と最適化後の比較
モデルのインポートとセットアップ
CODE Vで光学イメージングシステムを設計した後、モデルをLucidShapeにインポートして照明シミュレーションを行います。自動化されてはいませんが、このプロセスは簡単で、CODE Vの定義に一致するマテリアルを作成することができます。 LucidShapeのピクセル光源設計機能は、何千もの光源を個別に定義する設定作業を大幅に削減します。
シミュレーションの実行
LucidShapeのモンテカルロ・シミュレーションは、各光源ピクセルのレイヤーを含む配光分布の3次元配列を提供し、収差や迷光などの非理想的な挙動を捉えます。 この詳細なシミュレーションにより、設計上の潜在的な問題を早期に特定することができ、ハードウェアの開発前に是正措置を講じることができます。
LucidShapeにおける物理ベースのピクセル・ライト・シミュレーションとピクセル分解された照明分布。
上記のワークフローの実用性を実証するため、FMVSS ADBのヘッドライトグレア評価を実施します。これは、特定のセンサー位置を持つテストトラックを定義し、LucidDriveで動的なドライビングシミュレーションを実行し、LucidDriveのセンサー機能により、照度を定量的に評価することができます。これにより、このシミュレーションでは、規制要件への準拠が確認できました。
LucidDriveは最近、ドライブシミュレーション中や運転シミュレーション後にも照度値を定量的に評価できるセンサー機能を搭載しています。システム上で、さまざまなセンサーがそれぞれのセンサーの照度を時系列に記録しています。これは、FMVSS 108 ADBテストのグレアを評価するために行われるものです。
ADBヘッドライトの設計は、高度なツールと技法の組み合わせを必要とする複雑な作業です。 初期の概念シミュレーションから詳細な物理ベースの解析まで、安全で効果的な照明システムの開発には各ステップが重要です。 CODE V、LucidShape、LucidDriveなどのツールを活用することで、エンジニアはADBシステムを高精度で設計、解析、検証することができます。 結論として、この記事で取り上げたワークフローとツールは、アダプティブ・ドライビング・ビーム・ヘッドライトの設計に包括的なアプローチを提供し、より安全な道路とドライバー体験の向上に貢献します。 オンデマンド(英語版)またはSolvNetPlusで技術講演の全文(英語版)をオンラインでご覧ください(アカウントが必要です。リンクを表示するにはまずSolvNetPlusにログインしてください)。
本記事に類似する記事は下記カテゴリページよりご覧いただけます。
本記事の元内容(英語版)はこちら