Optical and Photonic Solutions Blog~日本語版~
公開日:2024年5月24日
AR(Augmented Reality:拡張現実)やVR(Virtual Reality:仮想現実)におけるフォトニックデバイスの需要が高まるにつれ、効率的で小型化された光学部品の必要性が高まっています。中でも注目されているメタレンズや光結合器、車載用LiDARやカメラからAR/VRシステムまで幅広い用途で重要な役割を担っています。しかし、性能を損なうことなくこれらの光学部品を大量生産することは難しい課題となっています。
フラットオプティクスとしても知られるメタオプティクスは、従来の集積回路製造技術を用いた大量生産(HVM)に移行しつつあります。メタオプティクスは、メタアトムで構成されるメタサーフェスとして構築されています。メタアトムは、約0.5~3μmの厚さの高屈折率フィルムに作られたサブ波長ユニットセルです。メタサーフェスは、集光レンズ、スプリッタ、導波路やその他の光学的機能として使用することができます。
メタレンズは、イメージングシステムに革命をもたらす可能性を秘めており、光学の分野で関心を集めています。しかし、メタレンズの設計と大量生産は困難であり、マスク製造、面取り、エッチング、フィレット、レイアウト生成、基板の平坦性への影響などが課題となっています。フォトリソグラフィやエッチングの工程では、四角形の角部や 垂直な側面など、望ましい結果を得られないことがしばしばあります。これらの欠陥は、メタサーフェスの性能指標に悪影響を与えます。
製造工程を考慮した設計手法でメタレンズを最適化することにより、設計者は製造上の課題を解決することができます。この手法では、光学設計(RSoft Photonic Device Tools)と製造プロセス設計(Synopsys Proteus、S-Litho、Sentaurus Process Explorer)ソフトウェアの先進技術を組み合わせることで、製造されるメタレンズが特定の製造技術にとって最適な性能に近づけることができます。また、これにより、光学設計および製造プロセス設計から設計ルールを実装でき、設計サイクルを短縮するとともに、”right-first-time"なメタレンズ設計を実現します。
図1:製造上の制限を組み込んだメタレンズ設計フロー。設計者が作成したメタアトムセットを製造工程でシミュレーションし、製造を考慮したメタアトムライブラリを作成します。その後、メタアトムライブラリを使用して、製造性能を向上させたメタレンズを開発します。
製造上の課題はメタレンズに限ったことではありません。AR/VR の導波路コンバイナの表面レリーフグレーティングを低コスト且つ高精度に製造することは、大量生産に適したデバイスを実現するための重要なステップのひとつです。
表面レリーフグレーティング(SRG)は、マイクロスケールの特徴を持ち、製造時に導入される表面フィレット、エッチング、粗さの影響を受けやすいです。光結合器にとって重要なパラメータは、SRGの空間回折効率を注意深く制御することになります。
SRGの形状に偏差があると、回折効率にばらつきが生じます。最適化の初期段階でこのようなばらつきを無視すると、アイボックス上の光の均一性という光結合器の目標性能に収束するために、複数の設計ループが発生することになります。光結合器の製造性を考慮した最適化フローを導入することは、SRGの製造上の不具合が部品の特性評価の一部となるため、設計の最終的な性能とロバスト性に対して有益です。
シノプシスは以下の図2に示すような完全な設計フローを提供しており、設計者は最適化の初期段階でSRGの製造プロファイルを統合することが可能です。光結合器の最適化は、画質と色の鮮明さだけでなく、アイボックス上の照度均一性の要件を満たすように実行されます。
図2:SRG製造プロファイルを初期点として使用した”right-first-time"な設計手法の概略図
光学設計、特にメタレンズやAR/VRデバイスの設計において、製造性を考慮することは、ロバストで効率的な光学設計フローにとって有益です。製造プロセスがこれらのデバイスに与える影響を理解しシミュレーションすることで、設計者は性能を向上させ、設計/製造/テストの繰り返し作業を減らし、時間とコストの両方を節約することができます。これらのデバイスの需要が伸び続ける中、このようなアプローチは、光学およびフォトニクス技術を進歩させる上で極めて重要です。
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